2SK79 SRPPコントロールアンプ

自宅での浪人生活を経てセンター試験を受け終わった、
96年の冬のことである。

なにせ宅浪だったので2月といえども暇をもてあまし気味である。
勉強しろ、っていったら確かにそうなのだが。
家から歩いて10分ほどのところにある本屋まで散歩をし、
何ともなしにぶらりと店内を一周する中で適当に手に取ったのが無線と実験1996年2月号であった。
当時、神保町の富士レコード社古書センター9階店でアイリーン・ジョイスのSP盤をなけなしのお小遣いで何枚か買ったものの、78回転のSP盤を聞けるようなレコードプレーヤは持っていなかった。
で、オーディオ雑誌であれば何か情報が得られるのではないか、と手に取ったわけだ。

で、ぱらぱらとページをめくると入力信号系の電線をユニバーサル基盤の穴に通し、電線間の距離を取ろうと素人目にみるとややもすると悪あがきにも見えるようなアンプ作成記事があった。
斜め読みではどうやらクロストーク防止(CD/Phono/Auxライン間での電磁誘導による信号飛びつき)を防ぐために、その、原始的に見える方法で対処しているのはわかったが、オーディオ雑誌という、湯上がりにバスローブでブランデーグラスを回しているような人種が読んでいるであろうと勝手に想像していた媒体にその種の地味な努力が堂々と取り上げられているのが妙に興味を誘い、購入と相成ったのである。

さて、家に帰ってその内容を眺めていると物理は初等力学でリタイアした生物系志望の自分にもそれっぽくわかりやすい記事であった。
表題は"対称2段シンプルコントロールアンプ"。著者は安井章という人だ。
その記事の中ではアンプはシンプルな構成の方がよい、ということが強調されていたが、さらなるシンプル構造としては記事にはない、2SK79、VーFETという素子で組むSRPP回路が一段増幅となり、かつ、"かなりの音質が期待できます"との結びがあった。
さらには2SK79はディスコンにもかかわらず、秋葉原の若松で相当量の在庫がある、との記述であった。
シンプル構成であるが故の部品数の少なさと上記"いい音"の記述を目の当たりにし、これは作ってみたい、と受験前にもかかわらず秋葉原まで2SK79ペアを買いに赴いた。

が、オーディオを趣味にしているような知り合いはいないし、お金もないしでFETを買っただけでそのままお道具箱の肥やしとなったまま数年がたった社会人3年目のゴールデンウィーク、ネットで安井氏が96年2月号では番外扱いで記載していた2SK79アンプの制作記事を2002年6月号の無線と実験誌に書いているといるという情報を手に入れた。平塚の図書館までコピーを取りに行き、記事を読んで安井氏から基板を譲ってもらい、今ではそう手に入らないSY-CAPやリケノーム抵抗をコツコツと集めてはただお道具箱にしまうという期間を経てようやく今年の正月休み、ようやく一気に制作にこぎ着けた。

あ、セイデンのLパッドアッテネータだけは先に作ってたけど。

まずはFETのペア取り。
基板に同封された部品配置図に記述された、「ソース抵抗は2SK79で決まる(3mA)」という記述と無線と実験2002年6月号の記事の内容からそれっぽく簡単な測定冶具を作成した。
ソースに5kΩの半固定抵抗と100Ωを直列でつないだ回路を作成するらしい
→100Ωに3mA流すわけだから300mVの電圧降下が100Ωで発生すればいい
てな感じでテスターで300mAになるよう半固定抵抗を調整して5kΩ+100Ωの電圧降下を測定、ペア取り。


P1090002web.jpg

測定一覧。
2sk79.jpg

黄色の4つを使うことにしてペア取り完了。


で、基板をシコシコ仕上げてだいたい仕上がったの図。
P1170005web.jpg

P1170004web.jpg

SonyのTA-8650にメインインでつなぎ、いざ電源を入れてみるとぶわぁぁんと盛大なハムが乗っている。
初めてのアンプ作りをしている自分にとっては通るべき道をたどっている実感を感じつつ、あれこれとテスターを当てると、どうやら入力端子のアース間が浮いている様子。
端子間はハンズで買ったポリウレタン被覆線を使ってはんだ付けしたのだが、"はんだ付けの際にはヤスリがけ不要"とパッケージに記載されていたのを鵜呑みにしたところ、ポリウレタンが溶けきっていなかったようで導通不良だったようだ。
で、テフロン被覆線が手元にあったため、被覆を剥いで交換、対処。

で、電源を入れるが、今度はホワイトノイズがひどい。
S/N比という言葉から、聞きたい音/ホワイトノイズ比を連想し、出力に抵抗入れればよくね?的な安直な発想から出力端子に抵抗を入れる。

P1180008web.jpg

4.7kΩを入れたところそれっぽく落ち着いたのでまぁ、これでいいのかと。
わかる人からするとせっかくVFETで大きくしたダンピングファクターがぁぁ、と叫びたくなるかもしれないが、プリアンプだし。
でも、まぁ、あれな対処で、あまりにもいまいちだったが、とりあえずそれっぽく音が出たので一端これで良し、として正月休みが終了。

で、ホワイトノイズの件に後ろ髪引かれつつしばらく過ごしていたが、やはり気になってテキトーにWebを漁ってると、電圧を作っているツェナーがどうやら悪さをしているらしい、という情報があった。
(ここここ)
で、当たりをつけ、出力端子の抵抗を戻してからツェナーに0.1μを並列につなげてみるとビンゴ。
あっさりと原因判明した。
ツェナーは基本的にローノイズを用いる必要があることがわかったので町田のサトー電気まで繰り出し、RD30JSを買ってきて電源回路のHZ30と交換。
いい感じになりました。

え。
音?
駄耳の自分は最近食堂で同僚の会話が聞き取りづらくなってきたほどなのでそこらは控えておきます。

ただ、自分で作るとやっぱりいいもんです。