Evgeny Kissin (エフゲニー キーシン)

Classicカテゴリ第1投稿は自分がクラシックの世界にのめり込むきっかけとなったキーシンでございます。
彼の演奏を初めて見たのが1991年サントリーホールリサイタルのBSの放送。当時中学2年だった自分は学習塾から帰宅した夜10時過ぎに母親がビデオ録画したものを再生するのを横目で見ながら夕食をとっていた。
もじゃもじゃ頭の神経質そうな青年が弾いている姿に目もくれず、ただ流れてくる音楽を聴きながら飯をかき込んでいた。ショパンのピアノソナタ3番を弾いていたが、自分の知らない曲だったため、何とも感じずに聞き流していた。
が、次の曲に移り、聞いたことある曲だな、と感じたところで箸が止まってしまった。リストの愛の夢第3番だった。
なんて、青臭い思い出が頭がよぎったわけですよ、Youtube見て。
世の中、実に便利になったもんです。

ミスタッチの場所が異なるので実際に自分が見た日の録画とは違う日の録画の様子。
1971年生まれ。今、もっとも売れっ子のうちの一人。85年のショパンコンクールでブーニンが優勝し、日本でブーニンブーム(とは言ってもClassicのブームなんてたかがしれているが)に沸いていた頃、
「ロシアにはもっと凄いやつがいる。まさに神童にふさわしいピアニストが。」などと噂になった人でございます。ちなみに、このときキーシンはショパンコンクールに出れば必ず優勝、といわれていたが、年齢制限で出場できなかった、なんて噂も流れていた。ともあれ、コンクールで入賞してキャリアを積み、ヴィルトゥオーソへの階段を上っていくのが常道な昨今、全く持ってコンクールに参加せず、ただただコンサートを続けることでキャリアを積んできた、今時ほとんどいないタイプのピアニスト。
12歳の時点でモスクワデビューを飾り、14歳で初来日。このときが西側デビューとなる。17歳でカーネギーホールにてアメリカデビューを飾るともうその時点でとんでもない人気者になってしまった。88年のベルリンフィル、カラヤン最期(御年80歳、ソリストとの年齢差63歳!)のジルベスタコンサートでソリストを演じる。カラヤン最期の映像作品となる。

Youtubeには丁度これらがちりばめられている。まずはモスクデビューの音声のみから。
ショパンの協奏曲1番。

まぁ、これを聞いてもジャケットの映像だけ差し替えた別の大人の演奏と疑いかねないが、映像もきちんと残っている。ほら、中途半端だけれども。

目をつぶって聴くととてもじゃないけれども小学6年生の音には聞こえない。凛とした清々しい演奏をやってのけています。

で、14歳の横浜リサイタル、と思ったところですが、アップロードされていたStage6が先月末で閉鎖してしまったため、15の時の東京リサイタル。
まずはプロコフィエフのソナタ6番戦争ソナタ第4楽章。
プロコフィエフのソナタ6番「戦争ソナタ」第4楽章

のだめブームに乗ってさそうあきらの漫画「神童」が映画化されたけれども原作で鳴瀬うたが八百屋のせがれ、和音の学校の文化祭について行って喫茶店で弦切りをやってのける激しい曲。余談だが、クラシックを描いた漫画はいくつか存在する。そもそも音という目に見えないものを漫画という視覚にしか訴えないジャンルで表現するのはがつらいのは想像に難くなく、どの漫画も主人公や取り巻く人々のパーソナリティをメインにストーリーを進めていく形となっているが、いくつか例外がある。その最たるものが手塚治虫絶筆の「ルートビッヒ」である。この作中ではベートーベンが変奏曲を演奏し出すと横山大観ばりの豪快な波が押し寄せ、また、バッハの平均律クラビアを弾き出すと緻密で永遠と続く積み木が描き出される。この表現はあまりに衝撃的で、古本屋で初めて見たときにのけぞる思いをしたことを覚えている。「よくわからないけど、なんか、音が見える!」という感触はこの漫画以外で感じたことはない。「神童」はここまでいかないにしろ主人公鳴瀬うたの才能を絵で表現しようと作者のいろいろな試みが見え隠れしており、主人公が腰痛のおじさんの腰を触るとおじさんがすくっと立ったり、耳が聞こえない子供たちが大きな風船で振動を感じて音楽を楽しんだりと、かなりがんばっている雰囲気はある。

横道にそれた。
15歳の時のキーシンである。
このときの演目がラフマニノフのリラの花から始まり、プロコフィエフのソナタ、リスト、ショパン、スクリャーピン、最後に三枝成彰編曲の夏は来ぬ、灯台守、うさぎと日本の唱歌へ続いていくのだが、この中で一番印象の残っている曲がこの曲、リストの演奏会用練習曲2番「La Leggierezza:軽やかさ」。

この曲は様々な人の録音があるが、皆、いかにもリスト、といった感じであっさりと早いパッセージを弾きまくる、といったものばかりとなっている。しかし、この演奏は違う。どっしりと腰を据えて、音を響かせてピアノに歌わせている。この録音と次に弾いた「森のささやき」はあまりに美しく、このリサイタルの中での一番の聴き所と、独りで思いこんでいる。

で、カラヤンとのジルベスタ。

この演奏は3楽章だが、やはり、目をつぶっても弱冠そこそこの若者が弾いているようには聞こえず、また、ベルリンフィルもノリノリ。唯一、おじいちゃんのカラヤンだけが疲れた雰囲気を醸し出していて、少し痛々しい。このときの1楽章では若さあふれるキーシンが突っ走り、それに対して孫を諭すようにカラヤンが指揮を止め、「落ち着くんだ、はやまるな」とて両手を胸に当てる。それにキーシンが答えると「ああ、そうだ」といった感じで再び指揮棒を振り始める、というシーンがある。自分の中ではとても好きな場面である。演奏しながら指導する、そんな「おじいちゃんと孫」ごとく暖かな一瞬である。DVDにも出てるので興味があればどうぞ。

途中でのだめが出てきたのでリストの超絶技巧練習曲第5番「鬼火」

のだめがコンクールのオクレール先生の前で「いやそうに弾いた」曲でございます。この曲も「リスト名人」ジョルジ・シフラをはじめ、様々な録音が残っているが、やっぱり皆、「どうだ、すごいだろ」的な演奏が鼻につき、どうしても好きになれない曲だったが、キーシンの演奏はその嫌みがあまり前面に出ておらず、とても好感が持てる。ちなみにCDで出ている録音ではこの曲の後に第8番「狩り」が轟音をとどろかせって始まり、柔らかな音でうとうとしかけていたところに心臓をわしづかみにされて冷や汗をかくことができます。

で、最近のキーシン。
まず、1997年プロムスより、有名どころのパガニーニ/リスト ラ カンパネッラをどうぞ。

2007年。ベートーベン、「なくした小銭への怒り」。このブログでも書いたことがありますが、おなか周りの恰幅がとてもよろしゅうなりました。


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