Valentina Lisitsa(ヴァレンティーナ・リシッツァ)

前回が録音として最古の部類を紹介したので現役かつ、コンサートのお値段もあまり高くない、でもとってもすばらしい演奏をする人を紹介することとする。
2chのクラシック板で"魔女降臨"などと騒がれていたのでどれどれ、と覗いてみたのがきっかけだった。
特に期待もせずに開いたこの動画を見たときにはさすがにのけぞった。

曲目はラフマニノフの練習曲音の絵画作品39-6。元々ラフマニノフの指定している速度がPrestだったりするうえで、それ以上のスピードで弾いていないか?というぐらいの疾走。「聴け、私の音楽!」的な自分ワールド全開の演奏に非常に惹かれた。1:15あたりの左手の跳躍が驚異的で、ニコニコ動画の方では"手が勝手に動く…"、"3倍速です"などというコメントがついていた。まさに鬼気迫る演奏だ。
そもそもこの曲の録音自体があまりされていないため、他で聴いたことがあるのは既に紹介しているキーシンの17歳東京リサイタルのCDのみであったが、テクニックは問題ないにしろ、音物語の彫刻はこのリシッツアの演奏にはさすがのキーシンも追いついていない(といっても17で問題なく弾きこなしている時点で驚異的だが)。

リシッツァという名前も聞いたことがなく、世の中にはまだまだ凄い人がいるもんだ、とDVD(Black & Pink、シューベルト・リストの歌曲集、ショパンの練習曲集)をUSアマゾンで即注文した。
Black & PinkというDVDでは上記の表情とはうって変わってソフトフォーカスでなんともコメントのしづらい(アイドルのPV?)的な映像となっているが、演奏そのものは高度なメカニックを披露するすばらしいものとなっている。曲目はPaganini/LisztのLa Campanella。

2:35あたりの3-5のトリル(中指と小指の交互連打?)なんかをまねしてみてやっぱりきっついなぁ、と感じることだろう。

ショパンのエチュード集も同様で、胸の大きくあいたきれいな人が男臭い(漢臭い?)曲をこともなげに弾きこなしているそのギャップはまた、あんぐりとする。曲目はOp.25-12。副題が"大洋"と呼ばれる曲。弾く人によっては横山大観ばりの台風の荒波が思い描ける曲である。

で、だ。
この人のCDをさらに探したのだが、これがまた、日本でなかなか手に入らない。Web上のめぼしいところで探すも全く見つからず、神保町を練り歩いても見つからない。
仕方ないのでこれまたUSアマゾンでマーケットプレイスを使ってやっと(半年かけて!!)手に入ったのがVirtuosa Valentina! Vol. 1とValentinaだった。Virtuosa Valentina! Vol. 1の方がお気に入りでLisztのHungarian Rhapsody No.2やShubert-Lisztの魔王、上で紹介したLa Campanella,LisztのSpanish Rhapsodyとどれも難しい曲だらけなのだが全く気にせずにまさに"疾走"する。特に魔王は最後の息子が息絶える場面で馬の蹄の音を意識したタタン、タタンというアクセント(う~ん、音楽的でない!)が他になく新鮮で、とんでもなく遅く弾いて陰鬱さを描き出しているヨーゼフ・ホフマンの演奏と並んでこの曲のお気に入りランキングトップにのし上がってしまった(まぁ、この曲はそんなに録音している人がいないのだが)。
もしかしたら同じ曲での演奏家録音集、とかやるとおもしろいかもしれないので次回以降の検討課題とします。

で、さらに、だ。
この人、あまり日本に縁のない人のようだが、Hilary Hahnの伴奏で2009年に来日公演する(というか、初来日)。ジャパンアーツのHilary Hahnのビラを眺めていて目を疑ったのだが、本当に来てくれるらしい。さらには
ソロリサイタルを1/19にトッパンホールで行うとのこと。さらに、さらには一番上で"魔女"と紹介したラフマニノフの音の絵画Op39-6もプログラムに入っている。
これを逃すと次はヨーロッパかアメリカまで行かないと聴けないかもしれない、ということでクラシックに興味のない方も手始めにどうぞ。テクニックでいえば現世最高峰のうちの1人、といっても間違いない。生きているうちに生で聴いておかないと人生の1%ぐらいを損します。
ちなみに来年はキーシンやポゴレリチ(なんとこれも1/19…)といった大物が日本に来る当たり年。ポゴレリチとリシッツァを天秤にかけてリシッツァを私はとりましたが、ポゴレリチも行きたかった…。曲目もショパンのソナタ3番があったりと魅力たっぷり。なんで1/19にぶつけるかを厳しく問いたい、ぶつけたい。誰に問えばいいかわからないけど。

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コメント

» ららトーク さんからのコメント

はじめまして。
本日、ヒラリー・ハーンの伴奏者としての、リシッツアの演奏を聴いてきましたが、かなりのピアノ奏者だと感じました。天性のカリスマ性というか、自分自身の音楽をもっている人で、やはりすごい人だったのですね。詳細な記述、ありがとうございました。

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