フラッシュバック

高校生のころ、長津田駅で案内板を悩ましげににらんだ後、豪快に振り返ってかつ、にこやかに自分まっしぐらに近寄ってくる黒人を目の当たりにしていやな予感を感じつつ、「英語で急行はExpressだから…」などと瞬時に思いをめぐらした後、ヤツの攻撃第1陣が「シブヤヘいくのはこちですかぁー?」と日本語の不意打ちであったことに面くらい、思わず「いえぇーす!」と答えてしまったことを思い出すともうね、ラジオ体操第2を生真面目に踊り(?)たくなることがままある、30代のおちゃめな夏休みです。

夏休みに入り、福島あたりに温泉めぐりにでも行こうか、などと考えていたわけで、むさい頭を何とかしようと美容院に行ったわけです。んで、いつも感じる、「シャンプーの駆け引き」をまざまざと味わったのですよ、奥さん。ほら、あの、「痒い所ないですかぁ?」「湯加減はどうですかぁ?」ってやつです。本当に痒い所を言ってしまうととんでもないことになることを想像してしまうわけですよ。「いやぁ、あの、ポールポジション(何のポール?)がいまいちなので股間ですかねぇ」なんていってしまった際にはそれこそ、その後の1hぐらいの気まずさをいかにごまかすかの対策を綿密に計画しておかないととんでもないことになってしまうわけで、「足の裏」などという一言で済ますことですら憚ってしまうわけです。
で、ちっちゃい人間である自分はあのタイミングで「あ、ないです」「あ、ちょうどいいです」などと、すべてに問題がないがごとくの受け答えをするわけですが、よくよく振り返るとこの「あ、」と接頭を付けてリズムを取ってしまう自分が滑稽なわけです。無防備に仰向けにされ、かつ「ご愁傷様でした」のごとく顔にガーゼを戴き、手の置き所もままならず、結局おなかの上で合掌してしまってもうね、まさに検案室の状態ではややもするとその非日常は実は楽しむべきではないのか、「あ、」なんて付けてる場合ではない、とイケナイ妄想の時間となるわけです。が、先にあげたようにセクハラするわけにもいかず、でも、楽しむほうがいい、という心のシーソーを経た結果、今回、「ノープロブレムです」と答えてみよう、と考えたわけです。我ながら貧困な発想に辟易しますが、まぁ、ちょっと進歩したわけじゃないですか、「あ、」と比べたら。
でね、待ちに待ち構えること30秒程。長いですね、この時間。獲物が罠にかかるのを待つ、ハンターの時間ですよ。そう、俺、ハンター。かっちょい~。でね、いざ、「流したりないところはありませんかぁ?」なんてくるわけですよ、子ウサギちゃんが。あっという間のまさに刹那でした。はめてやりましたよ、罠に。

「問題ノーです」

もうね、死にたいです。

「え、あぁ」
とおねぇさんがつぶやいた後何事もなかったように椅子の移動を私に促すわけですが、もうね、罠にかかった子ウサギ、俺。冒頭の黒人とのやり取りを思い出しながら節目がちに、しかもひねた様な微笑みを浮かべる自分が映る鏡を力なく見つめるしかありませんでした。

トラックバックURL

このエントリのトラックバックURL:

コメントする